クリニック内科医として開業するよりだいぶ前,大手鉄道会社の専属産業医として勤務していたことがあります。当時,産業医の仕事のうちで重要度の高い仕事はなにか,と考えたことがあります。
産業医として働いておられる先生方の中にはいろいろご意見がおありかと存じますが,私自身の考え方といたしましては『病欠者等の従業員の復職判定』が最高に重要度の高い仕事の1つであると感じておりました。
生まれつき裕福な家庭に生まれた一部の例外者を除き,『生きる≒稼ぐ』であります。そして,『稼ぐ≒働く』でありましょう。つまり,『生きる≒働く』であります。
世の中には『働かざる者,食うべからず』という言葉もございます。自営業としてクリニックを経営しておりますと,毎日ひしひしと実感するのでございます。
脱線しかけました。失礼いたしました。話題を元に戻します。
大手鉄道会社の産業医の時は,病気をかかえた従業員のみなさんの病状を把握するのが大変でした。
まず,従業員の方に「同意」をしていただかなくてはなりません。
なにを同意していただくかといえば,主治医の先生から産業医 に病状(診療に関する情報)を伝えていただいてもかまわないかどうか,についての同意でございます。そして『同意書』を作成します。
『同意書』と一緒に封筒に入れる書類として,『診療情報提供の依頼書』があります。『同意書』と『診療情報提供の依頼書』は,同一の紙面でも特に問題なさそうです。これらに加え,主治医の先生に記入していただくための『診療情報提供書』の書式を同封します。
今でこそ産業医の仕事は世の中である程度認識されてきておりますが,私が専属産業医として勤務しておりました西暦2000年~2009年頃(もう10年以上も前になってしまいました)では,産業医の仕事は世の中ではほとんど認識されておらず,「患者さんの医療情報をお知らせください」という意図の『診療情報提供の依頼書』なる書類を受け取っても,一般の診療科の先生方の中には何を要求されているのかよくわからないといった雰囲気がありました。
さらに産業医の仕事は保険診療ではありませんので,産業医に対し診療情報提供書を作成しても,対応していただいた主治医の先生に保険診療上の収入は発生しません。こういったことから,当時は大変苦労した印象をもっております。
クリニック内科医として開業してからの現在の産業医業務はどうかといえば,すっきりしています(下図)。
従業員がかかえている病気がどんな種類の病気であれ,いったん当クリニックを受診していただき,内科医として病状を診断,まだ主治医がいない患者さん(=従業員さん)には,病状にふさわしい診療科を紹介,すでに主治医がいる方に対しては主治医の先生におうかがいの診療情報提供書を作成し,返事を待ちます。
産業医として現在4ヵ所の事業所を担当しておりますが,この方法で特に問題なくスムーズです。現実的に復職のうえで多く問題となるのは精神科的な疾患をかかえた従業員のケースでありますが,精神科医からの診療情報提供も明確で,スムーズ。精神科の先生もやりやすそうです。事業所の管理監督者,事業主からも良い印象をいただいております。
現在私が行なっている方法が唯一絶対の方法ではありませんし,ましてや推奨される方法とも限りません。もっと良い方法があるのかもしれません。
私個人としては「産業医もやるにしても,開業して良かった」としみじみと感じております。(とりとめのない結論となってしまい申し訳ありません(汗))